コーヒーミルの歯の材質

コーヒーミルの歯には、色々な材質が使われています。

「セラミックだとか鋳鉄とか書いてあるけど、何を選んだら良いのかわからない…!」

悩んだ経験がある方も多いのではないでしょうか?

このページでは、歯の材質とその特徴について紹介致します。

コーヒーミルの歯にはセラミック製と鉄製がある

コーヒーミルの歯には、大きく分けると2つの材質があります。

  • セラミック
  • 鉄系の合金

セラミック歯

セラミックとは、無機物を焼結した材料のことを示します。

金属や合金以外の殆どの無機材料がこのセラミックの定義に当てはまるため、非常に広い分類になります。

身近な例で言うと、お皿やマグカップなど陶磁器もそうですね。

セラミックは金属に比べて硬い反面、割れ易い材料です。

そのため複雑な形状の製造が難しく、コーヒーミルの歯に使われるようになったのは、つい最近のことです。

金属と違い「錆びない」という大きな長所があるため、近年のコーヒーミルはセラミック歯のものが非常に増えてきています。

メーカーで言うと、ポーレックス・ハリオなどのコーヒーミルはセラミック歯が主流です。

どちらも陶業が専門のメーカーですね。

ちなみに、コーヒーミルのセラミック歯は、殆どがアルミナ(Al2O3)という物質の焼結体です。

アルミナの粉末は研磨剤として広く使われていて、超鋼合金の研磨にも使うくらい硬い物質だったりします。

長所

  • 錆びないので水洗い可能
  • 摩耗に強いので歯が長持ち

セラミックは金属と違い、錆びません。

そのため歯を水洗いすることができます。

コーヒーミルの歯に、酸化した古い粉や違う種類のコーヒーの粉がついていたりすると、次のカップの味は確実に影響を受けてしまいます。

そのため、美味しいコーヒーを飲む為には水洗いができることはとっても重要です。

また、セラミック歯は摩耗に強いです。

短所

  • 割れ易い

セラミックは靱性(じんせい)が低いため、割れ易いです。

ですのでセラミック歯を落としたりすると、あっけなく割れてしまう事があります。

鋳鉄の歯

鋳鉄とは、鋳造という製造方法で作った鉄です。

鋳造とは、とけた金属を石膏や砂などの型に流し込んで部品を作る方法です。

板金(金属の板を曲げたり絞ったりする製造方法)や鍛造(金属を叩いて変形させる製造方法)など他の方法に比べ、複雑な形状をつくることができます。

一方、鋳造で作った部品は、それらに比べてやや柔らかくなる傾向にあります。

メーカーで言うと、カリタのコーヒーミルなどで多く見かけます。

コーヒーミルの歯としては、非常に古くからある材料で、クラシックなコーヒーミルの歯はこのタイプが多いです。

長所

  • 落としても割れにくい
  • (歯の長所ではないが)クラシックな見た目のミルが多い
  • 豆を挽いた時の摩擦熱を放熱しやすい(?)

金属性なので、セラミックと違って落としても割れにくいです。

また、歯の問題ではありませんが、古くからある材質であるため、クラシックなコーヒーミルには鋳鉄性の歯がついていることが多いです。

見た目やデザインを重視する場合、鋳鉄製を選ぶのも良いでしょう。

セラミックに比べて熱伝導率が高いため、放熱性に優れているという説もあります。

ただし、空冷用の放熱フィンや水冷式の冷却配管があるわけではないので、放熱の寄与度は小さく、そこまで大きな影響は無いと思われます。

短所

  • 錆びるので水洗いできない
  • 摩耗しやすい

鋳鉄性の歯の最大の欠点は、錆びるので水洗いできないことです。

水洗いができないため、古いコーヒーの粉や油が付着し、次のカップに悪影響を与える可能性がついてまわります。

また、長期使用しないでいる場合も、自然と錆びてしまいます。

アンティークの金属製品を想像すれば、ご理解いただけるでしょうか。

通常の鉄系材料の機械部品であれば、錆を防止する為に塗料やコーティングを塗布したり、油を差したりすることができます。

しかし、コーヒーミルにおいては、そうした対策はコーヒーの味に大きな影響が出てしまうため、実施が難しいのが現状です。

その他の材質の歯

近年のコーヒーミルの歯は、セラミック歯と鋳鉄がほとんどですが、稀に下記のようなタイプも存在します。

  • 炭素鋼
  • 窒素添加型ステンレス

炭素鋼の歯

炭素鋼とは、炭素を0.02%~2.14%程度含む鉄と炭素の合金のことです。

一方、上で説明した鋳鉄は2.14%以上炭素を含む鉄と炭素の合金です。

炭素含有量が増えると、鉄の硬さは増します。

一方で靱性(じんせい)は逆に低下し、脆い材料になってきます。

こう聞くと、「鋳鉄より炭素鋼の方が硬いんじゃなかったっけ?」と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

結論から言うと、炭素鋼の方が硬くなります。

それは、炭素鋼は「焼入れ」が可能だからです。

よく映画などで、熱い日本刀を冷たい水につけるシーンを見かけますよね?

あれが「焼入れ」です。

炭素鋼は焼入れで結晶構造が変わる

鉄-炭素合金の結晶は、高温ではオーステナイト(面心立方格子)の形態、常温ではフェライト(体心立法格子)の形態が安定です。

また、オーステナイトに比べてフェライトは、炭素が個溶できる限界量が少ないです。

オーステナイトに限界まで炭素を溶かし、それを急冷することで、フェライトの結晶構造に炭素の原子を無理やり侵入させることができます。

こうして出来たやや歪んだ準安定の結晶構造が、マルテンサイト(針状の結晶)と呼ばれます。

金属の塑性変形とは、結晶の中にある転位(結晶の欠陥)が滑るように動いてしまうことが原因です。

マルテンサイトのように結晶構造をひずませることで、転位が動きにくくなる=塑性変形がしにくくなることにより、材料は硬くなります。

これが、焼入れという処理です。

炭素鋼のコーヒーミルの歯は、この焼入れという処理がされている場合、鋳鉄の歯より硬することができるのです。

鋳鉄の歯は焼入れすると脆くなる

すると次に、「鋳鉄の歯は焼入れで硬くできないの?」という疑問がわいてくるかと思います。

炭素鋼とは、オーステナイトに固溶できる炭素の限界量である2.14%以下のものを差し、それ以上が鋳鉄と呼ばれます。

この鋳鉄は高温のオーステナイトの状態で既に、炭素の固溶限界を越えているため、焼入れすると炭素がセメンタイト(FeC3)が析出してきます。

このセメンタイトは合金ではなく、炭化物ですのでセラミックの分類になります。

そのため、硬いのですが非常に脆く、材料としては靱性(じんせい)が低下していしまいます。

よって、一般に鋳鉄の焼入れはあまりされていないのが現状です。

窒素添加型ステンレスの歯

上で、「炭素鋼は焼入れによって炭素がフェライトの結晶構造に入り込み、マルテンサイト化するために硬くなる」と説明しました。

一方で、鉄に炭素が入ることで、耐食性が低下する=錆び易くなることが分かっています。

窒素添加型ステンレスは、炭素の代わりに窒素を添加することで、ステンレスの錆びにくい性質を維持したまま、マルテンサイト型の結晶構造を可能にした素材です。

これにより、

  • 硬い
  • 鋭利な歯の形状(セラミックより製造性が良いため)
  • 錆びないので水洗い可能

というハイグレードな歯を実現しています。

この窒素添加型ステンレスを採用している可能性があるコーヒーミルは、「コマンダンテ ・コーヒーミル」くらいです。

こちらも「ニトロブレード」という表現をしているため、窒素添加型ステンレスかどうか完全にはわかりませんが、硬質で水洗い可能という性質はそっくりですね。

将来はこうした材質を使ったコーヒーミルが、もっと製造されるようになることを期待します。

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